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2005年 12月 01日

劇団四季『異国の丘』

投稿者 by tak@taknews.net at 22:11 / カテゴリ: 19演劇 / コメント (0) / トラックバック (0)

 先日劇団四季の異国の丘を見てきた。平日のマチネだったので人は少ないと思っていたが、行ってみたら満員だった。ま、私と(性別及び年齢で)同類になる「客層」はゼロだったけど。

 つい少し前まで「演劇?、けっ!」とか言っていた90年代のアイロニーの体現者だった(?)私は、演劇そのものに対する詳細な評価はできない。かなり洗練されていてうまいだろうと思うけど、いかんせん見ている絶対数が限りなくゼロに等しいので・・・素人ながらの評価ではミュージカルとしての出来はさすがだな、と思うのだけど正しいかは不明。

 ストーリーはオフィシャルサイトの記述http://www.shiki.gr.jp/applause/ikoku/story.htmlを参照。確かに脚色はされているが、大筋で近衛文隆の生涯と重なっている。首相の息子、アメリカ留学、プリンストンのゴルフ部主将、蒋介石政権との直接の和平交渉、重慶政権要人の娘と交際、ソ連で25年禁固刑、帰国直前に謎の死 どれも実話だ。休憩後の冒頭に出てくる「異国の丘」を歌う場面の作曲者吉田は国民栄誉章をとった故・吉田正だ。

 劇を見ていてまず思ったのは、浅利慶太氏は国民国家を強く意識しているということだ。もちろん明治維新から敗戦までを描くと国民国家を強調してしまうのは仕方ない。しかしそれを超えて、浅利氏は国民国家観を現在にも投影しているように思えた。それは作品の随所に登場人物が過度に国民国家を意識していると考えられる発言のみならず、配布されたチラシ類の中にあった浅利氏の言葉からもそれが伺える。国民国家を持ち出す気持ちはわかるのだが、現状ではそれを超えなければならないのではなかろうか。

 一方でアジアの国は比較的「国民国家」の幻想を抱きやすい地域である。また国民国家という概念を持ち出すことは手っ取り早く国民に「共通前提」を提示するツールとしても使えるのは間違いない。明治維新のときに後発先進国に滑り込もうと焦って国民国家形成のために天皇を担ぎ上げたのもこのようなツールとして利用したのだ。当時の政治家たちにはこの「ネタ」的要素を十分に理解していた。

 また国民国家を超えろと偉そうに言っても、「ボーダレス社会」「グローバライゼーション」を声高に謳う「軽やかにこのボーダーなき時代を生きる」連中と同調する気も毛頭ない。それこそアンゲロプロスではないが、そんな簡単な越境は表面上のものでしかない。(しかしハンチントンなんかにはのりませんよ、ととりあえず書いておかないと勘違いされるな) もしかしたら浅利氏はそこまで考えて「ネタ」として国民国家を考えているのかもしれない。いや、それはさすがに深読みか。やはりあの年代のリベラル層には共通前提としての国民国家がスタート地点だったと考えていいかもしれない。

 こう書くと批判しているようだが、国民国家が自分のキーワードとなっていることもありちょっと突っ込んだだけでその他に浅利氏が提示するものは傾聴に値する。例えば論理的にどう考えても負け戦にしかならない戦争を仕掛けて(ないし自ら巻き込まれて)いった責任を考えようとする姿勢が感じられた。「戦争は悲惨だ」というだけでは風化は免れえない。そして後世の者たちへの直接的な思考訓練の提供ともなりえない。問題は論理的に考察してみることだ。あの年代(失礼!)でこのような問題意識を明確に持っている人は少ない。いや、ほとんどいないのではなかろうか。そのような認識が日本ではあまりにも足りない。論理的に振り返らないので責任をなすりつけあって無責任に逃れるか、無限責任を背負い無責任に逃れるかの二択になっている。

 他にもアメリカの二人の愛を大いに利用した和平工作(事実ではないと思うけど もし事実ならCIAと政府が分かれていたということになり面白いことだが)や、忘れられやすいシベリア抑留の厳しさ(これこそとんでもない国家犯罪だろう なぜ拉致にはうだうだ言うのにシベリア抑留については何も言わないのか「北朝鮮くそ!」と言ってカタルシスを覚えている連中は今すぐ考えるべきだ シベリアに比べて拉致なんて屁みたいもんだ)についての投げかけの役目も果たしいい作品だった。ただ単純に「戦争はつらかった」という情に訴えるだけのメッセージでは現実は変わらない。場合によってはそのような情に流されただけの態度が悲劇を生むことすらある。そうではない論理的な考察や多角的な問題提起を「異国の丘」は出来ている。国民国家に縛られているのは少々ひっかかるが、それは戦前生まれのリベラリストの共通前提であるのかもしれない。とりあえず次にやる『南十字星』も見に行こうと思う。『李香蘭』も見に行くつもりだったけど、いけなかったのが残念・・・ストーリーは一番面白そうなんだけど。

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